11月

ロッテンマイヤーさん
ロッテンマイヤーさん

 

 

 

 

  28(月)   イヌを飼うなら

 

 

 


   イヌを飼うなら名前はすでに決めてある。パトラッシュか、あるいはペレズヴォン。

   ぼくはパトラッシュといっしょに遊び、雪の降るなかルーベンスの画の前に倒れ伏す。ほどなくぼくらをむかえに天使がおりてくる。この天使はちょっとハイジに似ている。

   ペレズヴォンとはドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」作中にでてくる犬の名前です。ぼくの右足から繰り出される無回転シュートを追いかけてもらうんだ。

 

   毎年、寒さが厳しくなってくると決まってこんなしょうもないことを考える。今のところイヌを飼う予定はまったくない。

 

 

 

 

 

 

27(日)   ドSギタリスト

 

 


   ぼくはギターの取り扱いがかなり乱暴です。なんのケアもしないし、ボディを磨いたこともない。ギターが置いてあるすぐ横に生乾きの洗濯物を干したりする。アコースティック楽器にとって湿気は大敵なので、この状況はギターに対してひどい仕打ちである。

   ぼくはモノを大切にするタイプなのだけど、アコースティックギターにだけはなぜか冷たい。「このオレ様がお前のこと弾いてやってんだから多少のことはガマンしろ」くらいに思っている。ギターに接する時、ぼくはサドっ気全開です。

 

 


.  .  .  .  おまえは作られてから40年くらいたっている古いギター。今まで何人ものオーナーがおまえを抱き、いくつもの指がおまえのフレットの上を通り過ぎて行った。だけどさ、ここをこんな風にいじられたことはないだろ?おれはいきなり曲の演奏途中でペグをつまんで6弦を弛めにかかる。B音まで下げる。もう弦は音程を維持できないほどたるみきっている。こんなユルユルじゃおれキモチ良くなれないな。おれは徐々にストロークに激しさを加える。おまえは絶頂に向かって昇りつめていく.  .  .  .  。

 

 


   えーこれは「ストーキングブルース」という曲のエンディング部の演奏の様子を文章にしたものです。お間違えなきよう。

 

 

 

 

 

 

 

19(土)   歯医者でぼんやり考えた。

 

 


   先日歯医者に行った。半年に一度の定期検診。虫歯の治療じゃないから気楽です。歯石をとり、デンタルフロスで歯をケアしてもらう。ぼくはそのあいだ目を閉じてぼんやりしていた。

   天井に埋め込まれているスピーカーから音楽が流れていた。女の人が歌っていて、ゆったりとしたテンポのJ-POP。次のうたも、また次も、治療中に流れてきたのはすべてソフトなバラード調の歌だった。

   歯医者の治療室だから静かな曲調のものばかり流しているんでしょうね。ムシ歯を抜く時にヘヴィなギターサウンドを聞かされたら患者の神経に障るだろうから。有線放送には「ソフトなJ-POP」みたいなチャンネルがあるのかな。

 歯科医院ならまだいいけど、重篤な患者のいる病院ではJ-POPは流せないかも知れない。ボリュームを絞った室内楽なんかがいいのだろうか?とすると究極のBGMは無音なのかな。無音の有線チャンネルがあったりしてね。

 


   ウトウトしているぼくのアタマの中に、賢そうなスーツ姿の青年が現れた。彼は有線放送業界きってのやり手営業マンなのだ。彼は新しい企画書を片手に熱弁をふるう。

「 "無音チャンネル" は究極のBGMなんです。電源をOFFにすればもちろん音は消えて静かになる。しかしこの "無音チャンネル" はそれとはワケが違う。音の出ないチャンネルを選び、上質な静寂をスピーカーから流し続けているのです。」


   未来のことなど誰にも予測がつかない。いつの日か音の出ない有線チャンネルを聴く時代が来るかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5(土)   本は本屋で、エンピツは文房具屋で

 

 


   きのうの夕方、仕事を終えて自転車で自宅へ向かう。途中でコンビニに立ち寄った。最近ハマっているスパイシーチキンを買って店を出る。再び自転車にまたがりコンビニから少し離れた本屋へ。平積みしてあるワンピースの最新巻を買った。

   ワンピース最新巻はさっきのコンビニでも売っていたからチキンといっしょに買ってしまえばてっとり早いんだけど、なんでもコンビニで済ませちゃうのはあまり好きではない。なぜ、ときかれてもうまく説明できないんですが。本は本屋で、エンピツは文房具屋で買うのがいいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

3(木)   孤独な少年はサイドキックだけでサッカーをする。

 

 


   7歳くらいのころ、親にサッカーボールを買ってもらった。ぼくはよくひとりでそのボールを蹴って遊んでいた。


   今から40年くらい前、男の子に人気がある球技といえばダントツで野球だった。それに比べるとサッカーは地味な感じで、もちろんその頃プロリーグはないし、ワールドカップなんてほとんど話題に上らなかったはずだ。サッカーがマイナースポーツだったと言うよりも、当時は野球の独り勝ち状態だったのだと思う。


   なにがきっかけでサッカーボールを欲しいと思ったのか、もうおぼえていない。おそらく少年向けの「サッカー入門」みたいな本を読んでサッカーをやってみたくなったんだろう。

   ぼくの家族は団地に住んでいた。気が向くとぼくは団地内をドリブルして回った。ドリブルしながら道路ぎわの縁石やブロック屏に向ってボールを蹴った。斜め前に蹴ったボールは跳ね返ってぼくの前方に転がる。そのボールをトラップして再びドリブル、そしてときどき縁石にパス出し. . . . 。もの言わぬブロック屏との見事なコンビネーションであります。

   横にしかボールを蹴らないから使うのはサイドキックだけだった。思い切り蹴ったところで、飛んで行ったボールを拾いに行くのはぼく自身である。それってけっこうむなしい。

   低い雲に給水塔が突き刺さりそうな曇り空の下、ぼくは団地の中をボールとともに走り続けた。


   小学校3年になってぼくは地域の少年野球チームに入った。ひとりでサッカーをすることもなくなった。